タケルくんとケントくんという二人の医学生がいました。タケルくんは薬理学の実習にあたって、白衣が必要になりました。解剖学で使っていた白衣は死体の臓器やらでどろどろになってしまったのでとっくに捨てています。なので新たに買わなければならないということに当日気づきます。そしてタケルくんは手持ちの金が4000円ちょっとしかないのに、白衣を買うのにほとんとを使ってしまいました。翌日、お金を下ろすのを忘れていたため、お昼ごはんを買うお金もありません。そのため、1000円をケントくんに借りていました。

さっさと返せとせっつかれいるうちに、試験明けに二人で飲みに行く機会がありました。そこそこに飲んでダベります。そしてお会計になります。お代は二人で4000円です。そこでこんな会話がされました。


タケルくん「会計は俺がする。1000円借りていたんだから、差額が1000円になればいい。だから俺が2500円、お前が1500円だ。だから1500円よこせ」

ケントくん「それはおかしい。お前が3000円負担、俺がお前に渡すのは1000円だけだ」

タケルくん「なんでだよ、1500円だろ」


このおかしさが瞬時に理解できるでしょうか。少し冷静になって考えればごく当然であり真っ当で、なんでもないことです。ケントくんが1500円負担の場合、お金を借りる前と併せてケントくんの負担は2500円となります。一方、タケルくんは1000円のプラスと2500円のマイナスで1500円の負担になります。ケントくんが正しいのです。

こういう見落とし、と言ったら正確な表現かはわかりませんが、何かつっかかりのようなもの感じてらないと思いませんか。ただそれだけなんだけど、酔って思考力の低下した脳みそにはなにかこれが非常に意味ありげなことに思えて仕方ないのです。

もしかしたらどこかにこうやって騙したり騙されたりして人や、タケルくんのようにあやうく詐欺師になりかける人がいると思うと、なんとも言えない気分になるという、そういう話でした。